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広島地方裁判所 昭和49年(わ)86号 決定 1974年5月29日

主文

本件公訴を棄却する。

理由

一本件公訴事実の要旨は

被告人は

第一、昭和四八年七月一一日午前三時五〇分ころ、広島市弥生町五番七号附近路上を通行中のA子(当一九才)を認め、同女を姦婬しようと企て、丁、戍と共謀のうえ、同女を右菅運転の乗用自動車内に押し込み、同日午前四時すぎころ、広島県安芸郡府中町水分峡公園内に至り、同所に駐車した同車内において、同女の腹部を手拳で二回殴打し着衣をはぎとり、同女を後部席席シート上に押し倒すなどの暴行を加え、その反抗を抑圧したうえ、被告人、戍の順に強いて同女を姦婬した

第二、甲、乙、丙、丁と共謀うえ、同年九月一七日午前零時五〇分ころ、広島市榎町三番一六号附近路上において、被告人、甲、丙、丁がこもごも片山健二に対し同人の顔面、頭部などを手拳で毀打し、顔面、頭部、腹部などを足蹴にするなどし、もつて右片山に対し数人共同して暴行を加えた

第三、前記第二掲記の日時、場所において、佐伯幸枝所有の現金一、三〇〇円およびハンドバッグ一個(時価五、〇〇〇円相当)を窃取した

というものである。

二記録によれば、本件起訴状は、昭和四九年二月二七日広島地方裁判所に提出、受理され、右起訴状の謄本は同月二八日被告人に宛て発送され、同年三月二日午前一〇時四〇分、広島中央郵便局配達員により被告人の当時の住所である広島市東千田町二丁目三番一四号に送達されたが、たまたま被告人は父Mとともに同市内へ内装工事に出かけて不在のため、同居の母Sが被告人に代り右起訴状の謄本を受領したこと、同日午後七時三〇分ごろ被告人はMとともに仕事を終えて帰宅したが、MはSから起訴状の謄本を受領した事実を聞かされたのに、被告人の動揺をおそれ、翌三日の晩以降に本人に渡そうと考えこれを交付しなかつたばかりでなく、その送達の事実すら告げず、そのままSに保管させておいたところ被告人は右の事実を知らずに翌三日午前三〇分ころ、友人宅へ行くといつて外出したまま家出をし現在に至るまでその所在を確知することができず、従つて被告人本人は本件起訴状の内容を現実に了知するに至つていないこと等の事実が認められる(郵便配達員作成の同年三月二日付郵便送達報告書によれば、起訴状の謄本は被告人本人に直接配達交付した旨の報告がされているけれどもMの当裁判所に対する申述書(第一、二回)によれば、事実は前記認定のとおりである)。

右の事実関係によれば、本件起訴状の謄本の送達は、刑事訴訟法五四条により準用される民事訴訟法一七一条一項にいわゆる受送達者本人がその送達場所に不在の場合に、送達の趣旨を理解できる同居者に書類を交付する補充送達の方法によつたものと認められ、これによつて本人がその内容を了知しうる状態に至つたのであるから、補充送達それ自体は適法のものということができる。

しかし、起訴状の謄本を被告人に送達するのは、予め被告人に起訴状の内容を了知せしめ公判における防禦のための準備を十分につくさせるためであり、もし所定の期間内にその送達がなされないときは刑事訴訟法二七一条二項において公訴提起の効力を失う効果を附したものも、被告人の防禦権を保障し、その法的地位の安定を計つたものと解される。

しかるに、本件においては起訴状の謄本が同居の母に交付されることにより補充送達されたものの、被告人の責に帰すべからざる事由で、すなわち、父母においてことさら被告人にこれを交付しないうちに被告人がその事実を何ら確知しないまま家出しため結局、被告人はその内容を知ることが出来なかつたような特殊の場合にもなお有効に公訴提起の効力が持続するものとして訴訟を進行することは、被告人の法的地位の安定を害し、防禦権の保障の見地からしても相当でなく、前記起訴状の謄本送達に関する法意に副わないものといわなければならない(最高裁判所昭和三二年六月一二日大法廷決定刑集一一巻六号一、六四九頁参照)。

そうだとすると、本件においては、被告人が起訴状の内容を知らされず、これが防禦の機会をも与えられていないことは、起訴状の謄本の送達のなかつた場合と同様であるから、既に公訴提起の日から二ケ月を経過した本件公訴の提起はさかのぼつて効力を失つたというべきこと前説示により明らかである。

よつて、刑事訴訟法三三九条一項一号により本件公訴を棄却することとし、主文のとおり決定する。

(藤野博雄 宮城京一 池田和人)

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